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更新日:2020年9月28日
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山形ものがたり YAMAGATA'S STORY
いいれきし山形の歴史文化編
The Three Moutains of Dewa
はるか昔より、人の心に宿る自然への畏敬。
病や飢餓、人生の苦難を乗り越えようとした祈り。三山で知る、信仰の原点。
月山頂上の雲海
出羽三山は主峰月山を中心に、北に羽黒山、西南に湯殿山が連なる山で、このような形にものが並ぶことは、仏教において神聖な意味を持つ配列形態とされています。また、三山は今生において悟りを開き、仏となって生きとし生けるものに救いの手をさしのべられる人間になること(即身成仏)を目的とする羽黒修験道の行場でもあります。
人里に最も近い羽黒山で現世利益を願い、夜を司る月の世界を想わせる月山で死後の安楽を祈り、湯の湧き出る湯殿山の御神体に裸足であがることで、生命の蘇り、再生、即身成仏を約束されたと感得します。このように現在・過去・未来に見立てられた出羽三山は、生まれかわりの山として古より信仰を集めてきました。
羽黒修験道では、羽黒山は太陽、月山は月、そして湯殿山は星に喩(たと)えられ、現在・過去・未来を超越した宇宙ととらえています。現世をあらわす太陽の羽黒山は羽黒修験道の中枢として、山頂には三山の神々を合祀しています。しかし、出羽三山が神の山として神社となったのは明治時代の神仏分離政策によるもので、それ以前は神と仏をまつる神仏習合の山でした。
湯殿山神社参籠所と大鳥居
第50代執行別当天宥(てんゆう)法印は、江戸時代初期、戦国の動乱により荒廃した羽黒山を立て直したことから、中興の祖と讃(たた)えられています。天宥法印は、江戸幕府の黒衣の宰相と称された天海僧正の弟子となり、全山挙げて天台宗に改宗し、幕府の庇護のもと関東全域に出羽三山信仰を広めました。また、13年の歳月をかけて表参道に杉並木や2,446段の石段を築き、8km先の水呑沢から祓川まで水を引いて「不動の滝(現・須賀ノ滝)」を落とすなど山内を整備し、女性の登拝にも供しています。
天宥法印は、何百年も先の羽黒山の姿を思い浮かべながら、これらの事業に取り組まれたことでしょう。当時は幼木だった杉は今や老杉となり、国の特別天然記念物に指定され、参道を覆い尽くさんばかりに天高くそびえ立っています。永遠に続くように思える石段も、長い年月をかけて、数多の参拝者の一歩一歩によってすっかり丸みを帯び、過去でも未来でもない今だからある姿を見せてくれています。山頂への道を進みながら、羽黒山を守り続けてきた人々や祈りを捧げてきた人々の思いと、石段を踏みしめる自らの心を重ねられることでしょう。
羽黒山参道
死後の世界をあらわす月の月山は、山形県の中央に位置する標高1,984mの秀麗な山で、登拝口が八方七口あります。表玄関であり、初心者向けである羽黒山口からのコースは、ブナの原生林の中をぬって八合目の御田ヶ原まで車で行くことができます。阿弥陀の四十八願といわれる多くの池塘(ちとう)※が点在する中、短い夏の間は様々な高山植物が咲き乱れ、秋には黄金色に染まったワタスゲが靡(なび)き、まさに神話の中の高天原、神田を想わせる景色が広がります。これより月山山頂までの5.2kmの間、庄内平野、鳥海山、日本海を一望する遠景、果てなく続く稜線と、まるで天に上っていく道のようです。
※池塘:湿原の泥炭層(植物があまり分解されず堆積した層)にできる池。
最後に神の世界、宇宙とされる湯殿山は人間が手を加えてはならない場所とされ、社殿のかわりに御神体は梵天と呼ばれる大きな幣帛(へいはく)※で守護されています。縄文時代の自然崇拝を彷彿とさせる聖地ゆえに、奥の院として「語るなかれ聞くなかれ」と戒められてきました。神聖なものに対し直接的に言い表す語は避ける畏敬の念、口にすることは慎まなければならないという信仰から、今日でも書写は禁じられています。それゆえ何度も足を運び拝したくなる霊場として、別名「戀(恋)の山」とも呼ばれてきました。
※幣帛:神への捧げものの総称。梵天は竹や棒の先にこんもりと紙垂(しで)を取り付けたもの。
俳聖松尾芭蕉が生まれかわりの地・出羽三山でしたためた句は、より一層精気を増したようだと称され、湯殿山のことを詠んだ「語られぬ湯殿に濡らす袂かな」は、江戸の庶民に大変な興味を抱かせました。こうして、出羽三山信仰は関東以北に広まり、出羽三山への参拝を「東の奥参り」と呼んで、西の伊勢参りと並ぶ人生の重要儀礼としたのです。
古来、出羽三山に多くの参拝者が訪れるのは、日本人が神仏以前に山や自然に心を寄せてきたからに違いありません。人間よりも大きな存在に思いを馳せ、自然の中で深呼吸し、人生の苦難から生まれた悲しみ、怖れ、恨みといった自分に巣くう闇を逃がす・・・。出羽三山は、自然のパワーをいただき、闇から解き放たれた新しい心への生まれかわりをもたらしてくれる場所なのです。
~このストーリーは平成28年度に文化庁「日本遺産」に認定されています~
<取材協力>
出羽三山神社
月山頂上
白装束を身に纏(まと)い、出羽三山文化を体験
羽黒山の麓にある「いでは文化記念館」では、出羽三山文化を学び体験できる様々な企画展示やイベントが用意されています。また、ガイド付きで2,446段の石段を登り神社を参拝する「石段山頂コース」や、白装束を身に纏い、山伏修行を体験する「山伏修行体験塾」など、各種体験アクティビティも豊富です。
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いでは文化記念館
〒997-0211 山形県鶴岡市羽黒町手向字院主南72 電話番号:0235-62-4727