黒獅子まつり

長井市内約40社の神社およびその近郷の神社に伝わる黒獅子舞は、平安時代末期に起こった前九年の役（1051～1062）に勝利した源頼義が、總宮神社社殿再建の際に兵士に獅子舞をさせたことが始まりといわれています。

他に類を見ない独特の獅子頭と舞姿には、更に、この戦で討伐された安倍貞任の娘、卯の花姫の悲恋伝説が重なります。姫は謀略にはまり、敵の武将に恋心を抱き、自軍の戦術を漏らしてしまいました。父は戦死し、自らも敵に追われ、姫は自責の念を抱えたまま、古来より暴れ川として恐れられていた、長井を流れる野川上流の三淵渓谷に身を投じます。

黒獅子は、里を案じ続けている卯の花姫が竜神（大蛇）となり、里の祭りの日に野川を下ってくる姿であると言い伝えられています。幕には、その波しぶきが染め描かれています。

一般的な獅子舞は1～2名で舞うのに対して、黒獅子は波が描かれた大幕の中に十数名が入って操るため、その姿から「むかで獅子」の名も。大きく飛び出た眼球、前に長い鼻面、歯を剥き出しにした大口を持つ特徴的な獅子頭が「蛇頭（じゃがしら）」と呼ばれるのも、三淵の竜神に深く由来するからです。

御信心

目前まで迫った黒獅子は、警固の「ご信心！！」の掛け声で身体ごと頭を空に持ち上げると大きく口を開け、パコーーン！パコーーン！と辺りに高い音を響き渡らせます。黒獅子の歯打ちは、まさに天地の悪霊をまるごと食らうがごとく、人々の厄を祓い、家内安全を祈るのです。

猛々しい黒獅子を舞うその幕の中は、壮絶な戦場と化します。「右行げぇっ！右っ！」などと飛び交う荒々しい声。獅子頭を頭上で振り続ける者は、あまりの過酷さに3分で声も出ず、息づかいで合図を送ると次の人と交代していきます。本気のぶつかり合いが、頭から尾まで一体となった竜神の動きを生む獅子連中のコミュニケーション。獅子と警固の力比べも、まるで本気の喧嘩のようです。

水の神であり、川の流れそのものを象徴する黒い獅子、力比べをしながらこれを導き鎮める祭りのストーリー。飲み込まれそうな恐怖と、黒獅子を「おしっさま」と呼び慈しむ態度は、時に暴れ川となる水の脅威と、多くの恵みをもたらしてくれる水への感謝。「水が集まるところ」に由来する長井で人々が自然と身につけてきた、豊かな水に対する感情にほかならないでしょう。

ながい黒獅子まつり 警固揃い踏み